それってセクハラ?
兎の尻というのは、見ていると何故か触らなくてはいけないような気持ちにさせられる。餌を食べている時の後ろ姿など、邪魔をしてはいけないと思いながらも、つい撫で撫でしてしまう。兎好きのは勿論、そうでもない斎藤でさえ意味も無く撫でてしまうのだから、これは相当なものだ。きっと、あの丸い尻と、それに付いている丸い尻尾が人間を誘惑しているのだろう。丸くて柔らかいものというのは、何となく触ってみたくなるものである。
そんなわけで一日一回は兎の尻を撫でてしまう斎藤だが、最近はもっと気になって仕方がないものがある。それはの尻だ。
は何となく兎に似ているが、そんな所まで兎に似ているらしい。何というか、触りたい衝動に駆られる絶妙な形をしているのだ。最近になって、そのことに気付いた。
兎の尻を撫で回すのは、周りから見ても微笑ましい姿である。兎本人が嫌がっていたとしても、可愛がるあまりに愛が空回りしてしまう飼い主、で済む。だがそれが人間の女の尻というと、大問題だ。世間的には“痴漢”というものになってしまう。警官が痴漢になっては洒落にならない。
否、は斎藤の恋人なのだから、尻を撫で回そうが乳を鷲掴みにしようが、問題は無いはずだ。今日まで我慢してきたのだから、一度くらい羽目を外しても許されるのではないかとも思う。しかし―――――
今も新聞を呼んでいる斎藤の横で、が兎と遊んでいる。伏せの状態で兎を突付き回しているのだが、彼の方に尻を突き出しているような形になっているのだから、新聞記事よりそっちが気になって仕方がない。
無邪気というか無防備というか、とにかくは子供なのだろう。横にいる男が悶々としながら自分を見ているなんて、想像もしていないに違いない。その無邪気さが、斎藤を更に悶々とさせてしまうのだが。
しかしも良い大人である。見た目で騙されるが、恵と同じ歳なのだ。もしかしたら、無防備を装って斎藤を誘っているのではないか。そう思えば、これまでの行動も今の姿も全て納得がいくような気がしてきた。
誘われているのに何もしないなんて、これは大変失礼なことである。失礼を通り越して、の女としての自信を失わせていたかもしれない。これは大変なことだ。
斎藤は深く反省し、の期待に応えるためにぺたっと彼女の尻に手を当てた。が―――――
「きゃぁああああっっ!!」
は飛び上がって悲鳴を上げると、真っ赤な顔をして斎藤を睨みつけた。
「何するんですかっっ?! あたしは兎さんじゃないんですよっっ!!」
「え? ……えっ?! いや、あの………」
予想外の反応に、斎藤は目を白黒させる。
無防備を装っていると思っていたら、本当に無防備なだけだったとは。大人の女なのに男の前でこんなに無防備というのは、かなり問題である。
斎藤の前でだけなら無防備でも構わない。彼はの恋人であるし、十分に大人だから我慢も効く。しかし誰彼構わず無防備になっているとしたら大変だ。取り返しの付かないことにでもなったらどうするのか。
「そんな所に尻がある方が悪いんだろうが! そんな風に突き出されたら、誰だって触って欲しいのかと思うぞ!」
逆切れというか、自分勝手な言い分である。これには兎までも呆れたような冷ややかな目を向けた。
も一瞬唖然とした顔をしたが、すぐに顔を真っ赤にして反論する。
「何言ってるんですかっ。いきなり触られたら、誰だってびっくりするでしょう?!」
「じゃあ、一声かければ良いのか?」
「うっ………」
斎藤の大人気ない突っ込みに、は言葉に詰まってしまった。確かに彼女の言い方だと、触る前に声を掛ければ許すようにも解釈できる。
手を握るのも非常に稀という関係だからすっかり忘れていたが、恋人が身体に触るというのは当たり前のことだ。世間ではどんな頻度でどういう風にしているのか知らないが、二人きりの時はベタベタいちゃいちゃしている者もいるだろう。全く触れ合いの無い方がおかしいのだ。
今までそういうことが全く無かったから、失礼ながら斎藤はそっち方面は既に枯れてしまっているのではないかとは密かに心配していたのだが、そういうわけではなかったらしい。それは安心した。しかし、肩を抱いたりベタベタするのを飛び越して、いきなり尻を触るというのはどういうものだろう。それはそれで別の問題があるような気がしないでもないのだが。
「ま、まあそれは……いきなりよりは、ですねぇ………」
「えっ?!」
もにょもにょと恥ずかしそうに答えるに、斎藤はまたびっくりした。兎もびっくりである。
毎度のことながら、の発言にはいつもびっくりさせられる。斎藤の想定外というか、世間から見てもかなり想定外の発言だと思う。あんなに怒るから、「そういう問題じゃないでしょう!」と更に説教が続くものだと思っていた。
しかしまあ、一応お許しは出たのだ。今後は一声かければ、尻でも何でも触って良いというわけである。ただ、一声かけるというのが、かなり恥ずかしいのだが。
兎も角、怒りが収まったところで一安心していると、が真顔に戻って言った。
「でもいきなりお尻だなんて、斎藤さん、そんなにお尻好きなんですか? いつも兎さんのお尻を撫でてるし」
「は?」
またまた斎藤はびっくりである。
好きか嫌いかと問われれば、彼も健康な男子であるから好きである。しかし、そこだけに執着するほど好きかと問われると、首を傾げる程度だ。
冗談かと思ったがは真面目に訊いているようであるし、どうやら斎藤は尻好きな男と認定されてしまっているらしい。誤解といえば誤解だが、正しいといえば正しいだけに、何とも困ったものである。
どうやって説明すれば良いのやら、斎藤は眉間に皺を寄せて考え込んでしまうのだった。
兎のお尻って、何故か触りたくなるんですよね。「お尻お尻〜v」と言いながら、うさ丸の尻を日々撫で回しております。相手が人間だったら危ない人ですよ、私。
というわけで、うさ丸の尻を撫でながら思いついたネタ。これで一歩前進! っていうか、別の方向に前進しそうな斎藤です。駄目じゃん。普通に前進しろよ、頼むから。
何だか微妙な誤解をされてしまってますが、これは解くべきかそのままにしておくべきか、悩ましいところです。どうしよう………。