捕虜
「う………」目が醒めると、そこは倉庫のような石造りの狭い部屋だった。天井近くに通気口のような小窓があるところを見ると、地下室なのかもしれない。
窓からは太陽の光が微かに差し込んでいる。一晩此処で過ごしたということか。
観柳邸を脱出しようとして、蒼紫に見付かって、それから―――――
「…………っ」
よく回らない頭で昨夜のことを思い出していると、首筋に激痛が走った。
そうだ。閃光弾を使って逃げ出そうとしたけれど失敗して、逆に小太刀の鞘を首に叩きつけられて失神させられたのだ。“今鼠小僧”一世一代の大仕事は失敗だったというわけだ。
「あーあ………」
よりにもよって、この仕事で失敗するなんて。は小さく溜息をついた。
両手は後ろ手に回され、手枷を付けた上に御丁寧に鎖で縛ってあるようだ。が縄抜けを得意にしていたのを踏まえての措置だろう。勿論足にも同様のことがされている。
ずっと同じ体勢で転がされていたせいか、身体が痺れてきた。何とか身体の向きを変えようと、不自由な身体を芋虫のようにのたうたせていると、出入り口の扉が開いた。
「おや、もうお目覚めですか、鼠さん?」
じっとりと身体に纏わり付くような粘着質な声で、白い背広の男―――――武田観柳が言った。
この男が、“蜘蛛の巣”の黒幕。こんな貧相な、それこそ鼠のような男に“あの人”の命が奪われたのかと思うと、は悔しさで身体の中が煮えくり返りそうになる。こんなに近くにいるのに、彼女の力だったら一瞬で殺すことだってできるのに。手足を硬く縛められ、文字通り手も足も出ない今の状況が悔しい。
視線で射殺そうとしているかのような、の憎しみのこもった目など痛くも痒くもないように、観柳はにやにや笑いながら彼女の前に跪いた。そしての顎を強引に持ち上げて、
「世間を騒がす大泥棒とはどんなものかと思っていましたが、こんなお美しいご婦人だったとは。御頭さんが捕まえてきた時には大変驚きましたよ」
「私もあんたみたいな貧相な男が“蜘蛛の巣”の元締めだとは思わなかったわ」
の憎々しげな言葉が劣等感を刺激したのか、観柳の表情が一瞬強張った。が、すぐに本心を隠すような作り笑いに戻って、
「その“貧相な男”に囚われているのですよ、貴女は。口の聞き方には気をつけた方が良い」
「あんたが捕まえたわけでもないくせに、偉そうに言うんじゃないわよ。
こんな主人で苦労が絶えないんじゃないの、御頭?」
観柳に吐き捨てるように言うと、は出入り口のところで冷ややかに二人を見下ろしている蒼紫に皮肉っぽく言う。
かつては天才隠密と言われ、僅か15歳で江戸城御庭番衆の御頭を任された男。維新さえ無ければ、今も御頭として将軍と城を陰から守護していただろうに、今はこんなけち臭い麻薬密売人を守っているとは。かつては誰よりも尊敬し、憧れの対象でもあっただけに、それを知った時のの驚きと落胆は言葉では表せないものだった。
勿論、世の中は信念や奇麗事だけでは生きていけないことくらい、だって解っている。蒼紫一人ならともかく、異形異様の4人の部下を込みで雇うものなど、そういるものではない。彼らの能力を生かすことができて、且つ彼らの矜持を傷付けないギリギリの仕事が、これだったのだろう。
かく言うとて、蒼紫たちに偉そうに言えた立場ではない。コソ泥に麻薬密売人の護衛―――――御庭番衆も地に堕ちたものだと、は自嘲した。
「何が可笑しい?」
顔に出したつもりは無かったのだが、笑っていたのだろう。怪訝そうに目を細めて、観柳が尋ねる。
「別に」
の冷ややかな返答に、観柳は小さく鼻を鳴らした。囚われたコソ泥が何を考えていようと、関心が無いのだろう。
だから理由を追及する代わりに、いきなり本題に入る。
「貴女の後ろにいるのは、誰ですか? ただのコソ泥が自分の考えで裏帳簿を盗んでも、得することは何も無い」
「誰にも頼まれちゃいないわ。私の意志で盗んだのよ。あんたと違って、世間の皆様に愛されている義賊だもの、私」
小馬鹿にするように、はにやりと笑う。
自分の意思で観柳の裏帳簿を盗み出そうとしたのは、本当だ。盗み出した暁には斎藤に渡す約束はしていたが、それも頼まれたわけじゃない。頼まれたどころか、自分の復讐のために彼を利用しようとさえしているのだ。
けれどの理由など思いもよらない観柳は、更に追求する。
「隠してもためになりませんよ? 話してくれなければ拷問にかけるしかありませんからね。貴女だって、昔の仲間に拷問されるのは嫌でしょう?」
「拷問されたって、答えは同じよ。私には依頼人なんていない」
観柳の声も口調も生理的に不快で、はあからさまに顔を顰めて答える。
声も話し方も気に食わないが、何よりも不快なのはこの煙草臭い息だ。葉巻はただでさえ臭いがきついのに、顔を近付けて話されたらたまらない。
そういえば斎藤は全然臭くなかったなあ、とは唐突に思い出した。斎藤とは何度か顔を近付けたり接吻さえしたけれど、一度だって臭いと思ったことは無かった。彼の身体からも確かに煙草の臭いがしたはずなのだが、逆にいい匂いだと思ったくらいだ。
思い出したら、斎藤に会いたくなった。蕎麦屋で会ったのが最後になるかもしれないと、一応の覚悟はしていたけれど、やっぱり死ぬ前に一目だけでも会いたい。
「どうしました? 話す気になりましたか?」
の沈黙を観念したのと解釈したのか、観柳は勝ち誇った声で尋ねる。
その声に現実に引き戻され、は自嘲するように口許を歪めた。
もし自分が裏帳簿を持ってこなかったら観柳邸に迎えに来て欲しいと頼んだけれど、それさえ本当は頼めた義理ではないのだ。話を持ってきた時、斎藤は明らかに困っていたではないか。死ぬ前に会いたいなんて、望んではいけない。それより、斎藤に迷惑をかけないように始末を付けなくては。
はキッと顔を上げると、挑発するような蓮っ葉な口調で言う。
「臭い口、近付けんじゃないよ。ちゃんと歯ぁ磨いてんの?」
の安い挑発に観柳は一瞬で顔を真っ赤にして、彼女の頭を石の床に叩きつけた。そのまま髪の毛を掴んで、更に何度も々叩き付ける。どろりと生温かな血が手を汚してもお構い無しだ。
「優しくしてやりゃつけ上がりやがって、このアマァ!! てめぇの立場考えろ!」
そう怒鳴りながら、今度は立ち上がっての身体を執拗に蹴り続ける。小心者のくせに、激昂すると手が付けられない性格のようだ。尤も、が手も足も出せない無力な状態だから、安心して激しているのだろうが。
頭や腹を蹴られながら、それでもの頭の中は冷め切っていた。こんな安い挑発で、最初の目的を忘れるほどに激昂するなど、何と器の小さい男だろう。全身の痛みに苛まれながらも、の口許は嘲りで微かに歪んだ。
「そろそろ止めてやれ」
蒼紫の淡々とした声が聞こえたかと思うと、を蹴り上げていた観柳の足がふっと離れた。
見上げると、無表情の蒼紫が観柳の上着の襟首を掴んでいた。
「離せ、コラァ!! この観柳様をナメたらどうなるか―――――」
「拷問にかけるなら、それなりの体力を残しておけ。さもないと白状する前に死ぬぞ」
蒼紫の冷静な言葉に、観柳ははっとしたような顔をした。そして、まだ肩で息をしながらも、冷静さを取り戻したように乱れた襟を正す。
「そうだったな。じゃあ、今すぐ拷問にかけろ」
「いや、少し落ち着かせてからだ。無闇に痛めつけても意味が無い」
まだ興奮冷めやらぬ観柳に、蒼紫は冷静に答える。
が、その態度が再び観柳に火をつけたらしい。また顔を赤くして蒼紫を恫喝する。
「貴様、主人のいうことが聞けんのかっ?!」
「俺には俺のやり方がある。素人の貴様は黙ってろ」
「〜〜〜〜〜〜っっ!!」
声は相変わらず淡々としているが、蒼紫の僅かに怒気を含んだ目に圧倒されて、観柳は憎々しげに押し黙った。
主人と使用人ということになっているが、どうやら観柳と蒼紫の関係は殆ど対等に近いようだ。あんな男に、かつての御庭番衆御頭を務めた蒼紫を顎で使えるわけがないのだ。観柳はそれでも主人だと虚勢を張りたいようだが、の目から見れば滑稽なことこの上ない。
鈍い痛みでぐったりとなりながらも、はこの奇妙な主従関係を嘲笑うように小さく口を歪めた。
二人が出て行って、どれくらいの時間が過ぎたのか。時計も無く、外の景色さえ見えない地下室では時間の感覚が無くなってしまいそうだ。小窓から差し込む光の角度で、多分昼くらいにはなっているだろうとは思うが、よく判らない。
観柳に蹴り上げられた腹はまだむかむかしているし、全身の鈍い痛みも取れないけれど、多分打撲だけで酷い怪我はしていないはずだ。いくら無力化されても、あんな男にどうにかされるほどヤワな身体はしていない。ただ、頭から流れる血が目にかかるのと、口の中を切って血が止まらないのには閉口した。
時折口の中に溜まった血を吐き出しながら、は斎藤のことを考える。彼は今頃、どうしているだろうか。が来ないことに、気を揉んでいるだろうか。
一昨日、もし裏帳簿を持ってこなかったら生死を問わずに迎えにきて、と頼んだけれど、来てくれるだろうか。昨日の夜、あれだけの騒ぎを起こしたのだから、どんな形であれ警察も関与してくるはずだ。それに便乗して来て欲しい。そして、まだ生きているうちに彼の顔を見たい。
斎藤さん、とせめてその名を口にしたいけれど、誰に監視されているか分からないので我慢する。此処にいるうちは、どんな拷問をされても彼の名を口にすることは許されない。“斎藤”という昔の名前だけでも、きっと蒼紫は“藤田警部補”の存在を割り出すだろう。個人的な仇討ちのために、斎藤を巻き込むわけにはいかない。
寝返りを打つこともできず、虚ろな目で床に染み付いた血痕を見詰めていると、出入り口の扉が静かに開いた。
「酷くやられたみたいだな」
上からくぐもった男の声がした。
「………般若君」
そこには、薬箱と洗面器を持った般若が立っていた。彼はゆっくりと近付くと、の傍らに座って手当ての用意を始める。
「どうせまた痛めつけるんでしょ? 手当てなんて要らないわ」
ぐったりと横たわったまま、は冷め切った声で言う。
「蒼紫様の命令だ」
洗面器に浸した手拭いを絞りながら、般若も無感情に応える。そしての顔にこびり付いた血糊を拭き取ってやりながら、
「折を見て此処から出してやる。後は何処へなり好きなところへ行け」
「何を………」
かつては仲間だったとはいえ、今は敵に回った人間を逃がしてやるなんて、般若の性格からして考えられない。第一、蒼紫が許さないだろう。般若にとって、蒼紫の存在は絶対だ。彼の意に反することなど、思いつきもしないはずだ。
裏に何があるのだろうと探るの目に気付いて、般若は息を漏らすように笑った。
「そんな顔をするな。これも蒼紫様の命令だ」
「御頭の?!」
ますます信じられない。主人があの観柳とはいえ、それでも裏帳簿を盗み出そうとしたを逃がそうとするなんて。また舞い戻ってくるとは思わないのだろうか。
ここで逃がしてもらったとしても、蒼紫に感謝して観柳邸の敷居を跨がないということは絶対に無い。何度失敗しても、は盗みに入るつもりだ。盗みに成功するか失敗して殺されない限り、絶対にやめない。
「逃がしてくれても、また盗みに来るわよ? あんたたちに感謝なんかしない。それでも逃がすっていうの?」
「それでも良い。次に盗みに来た時も、立場上お前をまた捕まえることになるが、何度でも逃がしてやる」
「………どうして?」
あまりにも虫の良すぎる話に、は怪訝な顔で般若の顔を見る。穴が開くほど見たところで、般若の面を被った彼の表情を読み取ることなどできないのだが。
「俺たちにとっては、観柳のことなどどうでも良い。此処にいれば色々とキナ臭いことがあるからいるだけだしな。金を貰っているからそれなりの仕事はしているが、奴がどうなろうと知ったことじゃない」
消毒を終わらせると、次は傷口に血止めの軟膏を塗りつける。あくまでも応急処置だが、やらないよりはずっとマシだ。
事務的ではあるが丁寧な手つきの般若の手当てを受けながら、は彼の言葉を心の中で反芻する。明治の世になっても、蒼紫たちはまだ戦いを求めているのか。かつての仲間全員のその後の消息は判らないが、今でも連絡を取り合っている仲間はみんな、全く違う普通の生活を送っているのに。
けれど、そう思うだってとても“普通の生活”をしているとは言えないのだから、偉そうなことを言えた義理ではない。は生きるためにこの仕事を選んだのだし、それは般若たちも同じだろう。蒼紫はともかく、異形の彼らにまともな職に就ける道理は無い。
そんなことを考えていると、手当てを終わらせた般若は薬を片付けながら言う。
「お前が何の目的で裏帳簿を盗もうとしたかも、俺たちにはどうでもいいことだ。
今夜辺り一寸ごたごたがありそうだから、その時に外に出してやる。今はゆっくり休んでろ」
「ごたごた?」
「お前には関係ないことだ」
道具一式持って立ち上がると、般若は拒絶するように答えた。
昼も店屋物で済ませ、厠へ行く以外は執務室から一歩も出ずに一日過ごしたのだが、結局は斎藤の前には現われなかった。
日が暮れても姿を現さないということは、やはり失敗したのだろう。昨日の夜に観柳邸で爆発物騒ぎがあったと他所の課が騒いでいたが、近隣に被害が及んでいないということもあって有耶無耶にされたと聞いている。その下手人はに間違いないし、恐らく屋敷の何処かに監禁されていると思うのだが、令状無しでは家宅捜索など出来ない。
明日にでも、内偵している部下と連絡を取ってを探させるか。しかし、探させるにしてものことを何と説明するか。世間を騒がしている“今鼠小僧”だとは勿論言えないが、知り合いの女と説明するのも後が面倒だ。どういった知り合いなのか、何故観柳邸に監禁されているのかと問われたら、何とも説明のしようが無い。
そんなことを考えてながら煙草を吸っていると、蜷川がドンッと音を立てて新しい灰皿を机に置いた。
「これで灰皿を交換するの、4回目ですよ。いい加減吸いすぎです。窓を開けてるのに煙が籠ってるし」
見せ付けるようにぱたぱたと手で周りを仰ぎながら、蜷川は呆れたように言う。続けて、
「あの美人さん、とうとう来なかったですねぇ。振られちゃったんですか?」
事情を知らない彼女から見れば、斎藤は“美人に逢い引きの約束をすっぽかされた振られ男”といったところだろう。そう見られても仕方は無いが、振られたと思っているのをわざわざ口に出すのが蜷川らしい。普通なら気を遣って、何事も無かったように振舞うのが大人のやり方というものだろう。
美人に振られた、というだけならどんなに楽か、と斎藤は無言で新しい煙草に火を点ける。単なる失恋なら、女なんか腐るほど居るのだから次があると思えるが、の件に関しては問題が重いだけに気持ちの切り替えというのができない。
今も生きているのかどうか判らないが、生きているとしたら観柳邸の何処かで、は斎藤が来るのを待っているだろう。「絶対に行く」と約束したわけではないが、は斎藤が来ると信じているはずだ。それが斎藤には重い。
相手は所詮泥棒なのだから、と割り切れればいいのだが、何故か割り切れない。恋人でもない、友人でもない、それどころか警官と泥棒という敵対する立場であるのに、知らぬ振りはできない。あからさまに好意を寄せられて、情に絆されてしまったのだろうか。
「まあね。よく考えたらあんな美人さんが、警部補なんか本気で相手にしてくれるわけが無いんですよ。もしかしたら、警部補に貢がせる気だったかもしれないですよ? 独身の公務員って、結構溜め込んでるって思われているから。搾り取られる前に振られて良かったんですよ。ね?」
貶しているのか慰めているのかよく判らない言い分だが、多分慰めているつもりなのだろう。蜷川は屈託無くにこにこ笑っている。
慰めてくれるという気持ちは斎藤としても非常にありがたいのだが、どうせなら気持ちだけにしてもらいたい。に対する恋愛感情が無いから良いものの、これで本気で惚れていたら向こう一月は立ち直れないくらい凹みそうだ。
「ああ、そうだな」
何か言うのも面倒臭くて、斎藤は煙を吐きながら適当に返事をする。
返事をしつつ顔を上げると、蜷川は既に斎藤の前を離れて帰り支度をしていた。言いたいことだけいったら、後は相手の反応などどうでも良いらしい。やはり“慰める”なんて上等な知恵は持ち合わせてはいなかったようだ。
二つ折り鏡で化粧が崩れていないか確かめると、蜷川はさっさと荷物をまとめて立ち上がる。
「じゃ、早いですけど失礼します。お疲れ様でしたぁ」
「もう帰るのか?!」
別に残業するほど蜷川には仕事は無いが、定時きっかりというのはいくら何でも無いだろう。普通、5分くらい過ぎてから帰るものだ。
驚く斎藤に、蜷川は涼しい顔で、
「今日はデートなんですよ。じゃ」
と、弾むような足取りで執務室を出て行ってしまった。
「………“でぇと”って何だ?」
最近の若い者は何かというと外来語を使いたがって、斎藤にはついていけない。蜷川の様子から察するに、“デート”というのは何処かに遊びに行くことなのだろう。日本人なのだから、斎藤にも判る日本語で喋れと言いたい。
しかしまあ、蜷川がいなくなれば心置きなくゆっくりと考え事ができる。幸い今日は処理しなければならない仕事もあまり無いし、武田観柳に関する資料を読みながら今後のことを考えることにした。
その前に茶でも飲むかと席を立った時、ノックも無しにいきなり扉が開かれた。入ってきたのは、若い刑事だ。
「藤田警部補、武田観柳邸で乱闘騒ぎです! 人手が足りないので、応援お願いします」
「何だと?!」
観柳邸に行くか行くまいかで悩んでいたところに、向こうから行く口実が転がり込んでくるとは。もしかしたらの念が通じたのかもしれない。“女の一念 岩をも通す”とは言うけれど、大したものだ。
屋敷の中には入れれば、を探すのは簡単だ。単独行動はいつものことだから怪しまれることは無いし、屋敷の間取りも判っているのだからすぐに保護できる。保護した彼女を同僚に何と説明するかが頭の痛い問題だが、それも何とかなるだろう。
ただ、見つけてやった時にまた浮かれポンチなことを言われるのを想像するとげんなりするが、その一方で無駄口を叩ける元気があれば良いと願ってしまう自分もいて、斎藤も複雑な気分だ。まあ、口も利けないくらい弱られていたり、死なれでもしていたら寝覚めが悪いのだが。
「わかった。すぐに行く」
机に立てかけていた愛用の日本刀を取って、斎藤は席を立った。
囚われの身の上の主人公さんです。蒼紫、悪役にするつもりだったんですが、微妙に良い奴になってしまいました。や、主人公さんが観柳にぼこられるのを途中まで黙って見ていたんだから、微妙に嫌な奴か? でも、般若に命令して手当てをしてあげているので、許してやってください。
観柳は私の中では、“キレやすい小心者”認定です。お猪口の裏よりも器が小さくて、絶対お近付きになりたくないタイプに設定していますが、こういう分かりやすい悪役は嫌いではないですよ、私は。
さて、次回は漸く感動の(?)再会です。蜷川ちゃんにもデートのお相手がいるようですし、この二人の間でも愛が育まれれば良いですねぇ。