初詣

 正月も二日目になれば初詣客も減っているだろうと思っていたのだが、やはりまだまだ人は多い。元旦よりはマシとはいえ、人を掻き分けながら本殿まで行くのは一苦労だ。
 人よりも背が高くて力もある斎藤はそう苦も無く前に進めているが、小柄なは前に進むどころか人の波に流されて下手すると後退しそうな状態である。
「斎藤さぁーん!!」
 前を歩く斎藤の方に腕を伸ばしてぱたぱたさせながら、は悲鳴のような声を上げた。このままでは本殿に向かうどころか、斎藤とはぐれてしまいかねない。警察なのに迷子になるなんて、笑い話にもならないじゃないか。
 周りの人間に押し潰されそうになっているを振り返って、斎藤は呆れたように溜息をついた。子供ではないのだからもう少し要領良く動けないものなのか。今年も手がかかりそうだと、腕をぱたぱたさせて助けを求めている姿を見ながら、しみじみと思う。けれど、こうやって手のかかる姿を見るのは面白いと思ってしまうのだから、困ったものだ。
 緩んでしまいそうな口許をどうにか引き締めて、斎藤は不機嫌そうな顔を作る。そしてぱたぱたしている手を掴むと、思いっきり自分の方に引っ張った。
 すぽっと人の間から引き抜かれ、はよろめくように斎藤の胸に倒れこんだ。
「何やってるんだ、おまえは」
「すっ……すみませんっっ!!」
 ぱっと身体を離して、は耳まで真っ赤にして俯く。
「ったく………。迷子にならんように、しっかり手を繋いでろよ。警官なのに迷子案内所まで引き取りに行くなんて御免だからな」
「………はい」
 斎藤は面倒臭そうに言うけれど、正月早々手を繋いで歩けるのはには嬉しい。手を繋いで初詣だなんて、まるで本当の恋人同士みたいだ。新年早々こんなことができるなんて、今年はもう少し斎藤との距離が縮まりそうな気がしてきた。
 きゅっと手を握り返して、はこみ上げる笑いを必死に堪える。油断するとにやにや笑いが出てきそうで、それを見られないように俯いたまま斎藤の後をついて行った。
 斎藤が人を掻き分けて作った道を無言で歩く。何か話しかけなければ、とも思うのだが、今はドキドキしてそれどころじゃない。でも黙っているとドキドキしているのが斎藤に知られてしまいそうで、それも恥ずかしい。
 もしかしたら今年はこうやって手を繋いで歩くことが増えるかもしれないのだから、そんなにドキドキしちゃ駄目だと、は自分に言い聞かせる。ひょっとしたら、手を繋ぐどころか、もっと違うことをするようになるかもしれないのだし。そんなことをしている自分の姿を想像したら、それだけでの体温は一気に上昇してしまった。今年も妄想は健在のようである。
 今年は本当に上司と部下以上の仲になれますようにとお願いしよう、とは歩きながら思う。毎日のように一緒に夕御飯を食べたり、時々一緒に通勤したり、斎藤が飼っている兎の世話をしてあげたり、普通の上司と部下よりは親密だけれど、でもそれ以上に親密になりたい。誰もが認めてくれるような恋人同士になれれば良いなあと思う。
 そんなことを考えていると、いきなりするっと手袋が抜けてしまった。斎藤の歩幅に付いて行けなくてもたもたしていたから、思いっきり引っ張られて手だけ抜けてしまったのだ。
「あっ………」
 けれど斎藤はそんなことにはまるで気付いていないように、さっさと前を行ってしまう。は慌てて追いかけたけれど、すぐにまた人の波に押し流されてしまって、どんどん斎藤から離れていってしまうのだった。





 どうにか本殿まで辿り着くことが出来て、やっと斎藤は一息ついた。まったく、いくら初詣とはいえ、東京府下には何百と神社があるのにどうして此処にこんなに人が集まるのだろう。
「ほら、―――――」
 人と人の間に挟まれた右手を引っ張って、その先にいるはずのを引っ張り出す。が―――――
「何だ、これは………?」
 斎藤の手の中にあったのは、がしていた赤い毛糸の手袋。そこから繋がっているはずのの姿が無い。
 前に進むことに一生懸命で、ちゃんとが付いてきているか確認しなかったのが失敗だった。というか普通、もう子供じゃないのだから、しっかり付いてきていると思うだろう。後ろに気を配らなかった斎藤も少しは悪いかもしれないが、手を繋いでいてもはぐれてしまうもどうかしている。
 とはいえ、今更のぼんやりさを責めても、自分の迂闊さを悔やんでも仕方が無い。とりあえず手袋の中身を探すのが先決だ。
「しかし………」
 後ろに広がる黒山の人だかりを見て、斎藤は早くもげんなりしてしまう。これだけの人間の中からたった一人を見つけ出そうなど、土台無理な話だ。の方も斎藤を探してうろうろしているだろうし、これで探し出せたら奇跡としか言いようがない。
 が恥を忍んで迷子案内所に保護を求めるなら話は別だが、同じ警視庁の巡査もいるあそこに行くことが出来るだろうか。斎藤だってを引き取りに行くのは厭である。もしそこにいる巡査の口から、と一緒に初詣に行ったことが他の者にばれたら、そっちの方が恥ずかしいではないか。正月早々歳の離れた部下と逢い引きをしていたなどと噂が立ったら、他の部下たちにも示しが付かない。
 が、自己保身のためにを見捨てるというのも、勿論できるわけがない。斎藤とはぐれてしまって、心細くて子供みたいにしくしく泣いているかもしれないではないか。は歳の割には子供っぽいところがあるから、そういう可能性は大いにありうる。
「………仕方ないか」
 正月早々、面倒なことになってしまった。今年は面倒な一年になりそうな予感である。
 斎藤は大きく溜息をつくと、再び人込みを掻き分けながら迷子案内所を目指した。





「どうしよう………」
 今にも涙が零れ落ちそうなほどに目を潤ませて、は小さく呟いた。
 こんなところで斎藤とはぐれてしまうなんて。いくら斎藤が人一倍背が高くても、これだけ人がいる中では探しようがない。この歳で迷子になるのも情けないのに、一応警察関係者なのに迷子になったというのが更に情けない。
 周りの人間たちはの姿など見えないように、彼女にぶつかりながら色々な方向に歩いていく。小さく悲鳴を上げても誰も振り返ってくれなくて、自分の存在が誰にも見えていないような心細さに襲われた。このまま斎藤に探し出してもらえなかったらどうしようと思うと、それだけで泣きたくなってしまう。この神社に来たのは初めてで、漠然と斎藤の後をついて行っただけだから、には帰り道が解らないのだ。それが一番心細い。
 こうなったら迷子案内所に行くしかないだろうかと考える。けれどあそこには正月出勤の警視庁の巡査もいるし、知り合いに会ったら恥ずかしい。それにあんなところに行ったら、斎藤だって迎えに来辛いと思う。と初詣に来たなんて、誰にも知られたくないはずなのだ。
 どうして良いのか解らなくて呆然と立ち尽くしていると、いきなり後ろからやって来た人にぶつかられてしまった。相当勢い良くぶつかられたらしく、はそのまま地面に転んでしまう。
「いたっ………!」
 膝をついた拍子に、涙が零れてしまった。膝をぶつけたのも痛かったけれど、それ以上に心細くて情けなくて、そっちの方に涙が出てきた。
「あ、悪ぃ。大丈夫か?」
 ぶつかってきた若い男がに手を差し伸べてきた。
 顔を上げると、そこにいたのは鳥頭の背の高い若い男。連れなのか、すぐ傍には赤毛の短身痩躯の男と、長い黒髪を高い位置でリボンで結んだ娘が立っていた。きっと友達同士で初詣に来たのだろう。
 軽くぶつかっただけのつもりだったのに泣き顔を見せられて、男は戸惑った顔を見せた。子供ならともかく、大人の女が泣いているのだから当然だ。
 鳥頭の男は慌てた様子でを立ち上がらせると、着物に付いた土埃を払ってやる。そして子供に言うような優しい口調で、
「そんな酷くぶつかったか? 悪ぃ、よそ見して歩いてたから―――――」
 鳥頭の男の言葉に、は慌てて首を振った。確かに勢い良くぶつかられて痛かったけれど、涙が出たのはそれが理由じゃない。
「違うんです。連れの人とはぐれちゃって……それでどうしようかと思って………」
「それなら迷子案内所に行けば良いでござろう。その連れの人も、もしかしたらそこに行っているかも知れないでござるよ」
 連れの赤毛の男が提案する。が、それにもはぷるぷると首を振って、
「そんなことをしたら、怒られます。それに、あそこには来てくれないかも………」
「そんなこと言っても、この人込みの中を探すなんて無理よ。相手の人だって探してるに違いないんだから、迷子案内所で待ってみたら? もしかしたらもう行っているかもしれないし」
 リボンの娘も赤毛の男の意見に賛同する。
 確かにそれは正しい判断なのだろうけれど、でも斎藤にはそれは通用しないと思う。多分迷子案内所なんかに行かずに、自力で探そうとしているだろう。
「とりあえず、案内所に行って一時様子を見てみるでござるよ。それで駄目だった時は、拙者たちも一緒に連れの人を探すでござるよ」
 赤毛の男はそう言うと、の腕を掴んで半ば強引に迷子案内所の方に引っ張っていった。





 鳥頭の男たちは、を迷子案内所のテントに預けると、先に初詣に行ってくると本殿の方に行ってしまった。もし帰ってくるまで連れが迎えに来なければ一緒に探すし、もし迎えに来たらそのまま帰ると良いと言ってくれた。
 世の中には親切な人もいるものだとは嬉しかったが、同時にまた一人にされて心細くなってしまう。迷子案内所に知っている警官がいたらどうしようかと心配していたがそれは杞憂だったらしく、とりあえず知っている顔は無い。もしかしたら休憩に行っているのかもしれないが、この隙に斎藤が来てくれればいいと思う。
 案内所の警官たちは新米警官ばかりらしく、みんなとそう変わらない歳のようだ。きっと、先輩の警官たちから正月出勤を押し付けられたのだろう。貧乏くじは下っ端が引くというのは、何処の部署も同じだ。けれどみんなに親切で、身体が温まるようにと甘酒をくれたり餅を焼いてくれたり、退屈しないように話し相手になってくれる者もいる。警察関係者だとは言っていないが、やはり若い娘相手というのは彼らにもいい退屈しのぎになるのだろう。
 同年代の警官たちに気さくに話しかけられると、もだんだん心細い気持ちが消えていくような気がしてきた。こんなことだったら、もっと早くに迷子案内所にきていれば良かった。
 そんなことを考えながら甘酒を飲んでいると、テントの中に人が入ってくる気配がした。
!」
「あ、斎藤さん!」
 入ってきたのは、斎藤だった。来てくれないと思っていたのにこんなに早く来てくれて、は嬉しくて思わず椅子から立ち上がる。
 てっきり心細くて泣いていると思っていたのに、楽しそうに甘酒を飲んでいるの姿を見て、斎藤は思いっきり脱力してしまった。そりゃあ泣いているよりは楽しそうにしている方が安心だが、それにしたって若い警官に囲まれて楽しそうに談笑しているなんて想像もしていなかったのだ。
 幸い、此処にいる警官には斎藤が見知った者はいなくて、それにはほっとする。ほっとはするけれど、他の男とが楽しげに話すのは妙に腹立たしくて、斎藤は開口一番怒鳴りつけた。
「何やってるんだ、お前はっ?! いい歳して迷子案内所の世話になるんじゃないっっ!!」
「すっ…すみませんっっ!!」
 感動の再会のはずがいきなり怒鳴りつけられて、は怯えるようにきゅっと身を縮こまらせる。一寸は説教されるとは予想していたけれど、いきなり怒鳴られるとは思わなかった。
 小動物のようにびくびくするに、更に怒鳴りつけてやろうと斎藤が口を開きかけると、周りにいた警官が気の毒に思ったのか庇うように言う。
「まあまあ。これだけ人がいればはぐれても不思議は無いですよ。大人でも此処の世話になる人はいますからね、珍しいことじゃないです。だからそんなに怒らないであげてください」
 若い警官がを庇うのも、斎藤には面白くない。が、これ以上怒鳴ると自分が悪者になってしまいそうで、憮然とした顔で言う。
「で、一人で来たのか?」
「いや、親切な人が連れてきてくれたんですよ。背の低い赤毛の男性と、背中に“悪”って書いた羽織を着た男性ですね。もしお連れさんが見えなかったら、一緒に探してあげると言ってて、今時珍しい親切な人たちでしたよ」
「赤毛の男と、“悪”の羽織の男………?」
 警官の説明に、斎藤はぴくっと片眉を上げた。奇遇にもそんな特徴を持つ男を、斎藤はよく知っている。知っているとはいえ、友達でも何でもなく、できれば顔を会わせたくない相手だ。特に、が絡んでいる時には。
 こんなに広い東京で、神社も腐るほどあるというのに、まさか“あの二人”も此処に初詣に来ているとは。しかもを此処に連れてきたなんて。これも腐れ縁という奴だろうか。できれば縁切り寺で断ち切ってしまいたい縁である。
 あからさまに不機嫌な斎藤の様子を察して、は連れてきた男たちを庇うように言う。
「怪しい人じゃなかったですよ。凄く親切な人で………。此処に戻ってきたら、ちゃんとお礼を言わないと」
「礼なんか言わなくて良い!」
 またまた怒鳴られて、はますます萎縮してしまった。親切にしてくれた人に、どうして斎藤がこんなに怒るのかまったく解らない。
 には罪は無いけれど、でも“あの二人”を庇うのはむかむかする。確かに迷子になったを此処まで連れてきてくれたのは親切でしてくれたのだろうが、でも下心だってもしかしたらあったかもしれないじゃないか。赤毛の男―――――緋村抜刀斎は狸娘という相手がいるからともかくとして、“悪”一文字の鳥頭は油断できない。これを期にに近付こうとしていたかもしれないではないか。
 大体、初対面の男たちにほいほい付いていくの神経を疑う。親切でしてくれたのだと素直に信じ込んで、確かに何も無かったから良かったものの、もし“親切な二人”が下心たっぷりの悪い男だったらどうするつもりだったのか。素直な気性なのは結構なことだが、若い娘なのだから警戒心を持つことだって大切だ。
「まったく、もしその二人が悪い男だったらどうするつもりだったんだ。此処じゃなくて別のところに連れて行かれて悪さでもされてたら―――――」
「それは無いですよぉ。一緒に女の子もいたし。世の中、悪い人ばかりじゃないんですよ」
 はまったく気にしていない様子で、まだ二人を庇うように言う。
「そんなこと言って、男なんて見た目だけじゃ解らないんだぞ。特にこんな人込みの中では痴漢とかそういうのも多いし―――――」
「大丈夫ですって。そんなこと考える斎藤さんの方が変ですよ!」
 折角親切な人に助けてもらったのに、その人を貶めるようなことを言われて、はぷぅっと膨れる。お礼を言わなくても良いなんて言うし、そんな礼儀知らずな人だとは思わなかった。
 あくまでもあの二人を庇おうとするの言葉に、斎藤はかっとなる。他の人間ならともかく、あの二人を庇うなんて。いくらが何も知らないとはいえ、自分でも抑えられないくらい腹が立ってきた。
「何を言ってるんだ! 用心には越したことはないんだぞ! お前は可愛いからそういう痴漢に狙われても―――――」
 そこまで言って、斎藤ははっとしたように口を押さえた。いくら興奮していたとはいえ、何を言おうとしていたのか。痴漢に狙われる可能性があるということを伝えたかっただけなのに、余計なことまで言ってしまって、斎藤は顔を赤くする。
 対するも、何を言われたのか解らないようにきょとんとした顔をしたが、次の瞬間には顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ちっ……違うぞ! 俺が可愛いとか思ってるってわけじゃなくて、一般論というか、若い奴らがお前のことを可愛いと噂していたのを聞いたから………!! 俺の意見じゃなくて、みんなの意見なんだからな!!」
 慌てて取り繕うように斎藤は説明するが、噛みまくりで動揺しているのは一目瞭然だ。こんなに動揺している斎藤を見るのは初めてで、は真っ赤な顔のまま唖然として見上げる。
 さっきまでえらそうに説教していた男が、みっともないくらいに動揺して、周りの警官たちも可笑しそうににやにや笑っている。この若造どもも怒鳴りつけてやりたかったが、あんな姿を見せた後では迫力に欠けるというもので、斎藤は忌々しげに舌打ちをすると、の手を引っ張って出口に向かった。
「ち、一寸、斎藤さん!」
 いきなり手を引っ張られて、は何が何だか解らないように戸惑った声を上げた。此処の警官にも礼を言ってないし、此処に連れてきてくれた人たちにも礼を言わなければならないのに。
 斎藤は出口のところで足を止めると、警官たちの方に向かってぶっきらぼうに、
「この阿呆が世話になったな。その二人が此処に来たら、礼を言っていたと伝えてくれ」
 捨て台詞のようにそう言うと、斎藤は早足でテントを出て行った。
 このまま再び本殿に向かうと思いきや、斎藤はずんずんと出口の方に歩いていく。
「斎藤さん、初詣は?」
「初詣は明日だ! 今日は日が悪い」
「でも………」
「“でも”じゃない!!」
 のほうを振り返りもせず、斎藤は吐き捨てるように怒鳴った。
 迷子になったのをそんなに怒っているのだろうかと、はおずおずと斎藤の表情を窺う。確かにまだ怒ったような不機嫌な顔をしているけれど、でも目の縁を赤くしていて、もしかしたらまださっきの“お前は可愛いから”発言を引き摺っているのかもしれない。本当に怒っているなら斎藤の性格から考えて、を置いてさっさと歩いて行ってしまいそうだし。こうやって手を引っ張ってくれるのだから、に対してはもう怒っていないのかもしれない。
 斎藤はみんなの意見だと言い張っていたけれど、でも彼の口から“可愛い”という言葉が出たのは嬉しかった。言おうと思って言ったのではなくて失言のようだったけれど、そんな失言をするということは、心の中ではそう思っていてくれたのだということだし。失言というのはその人の本音だと聞いたことがある。
 便宜上とはいえこうやって手を繋いでもらえて、しかも斎藤は否定していたけど彼の口から“可愛い”なんて言ってもらえて、正月早々嬉しい。神様にはお願いできなかったけれど、この調子ならもしかしたら今年は今よりも少しだけ先に進めるような気がしてきた。
「斎藤さん」
 嬉しくてこみ上げる笑いを堪えながら、は申し訳なさそうな声を作って話しかける。
「心配かけちゃってすみませんでした」
「………うん」
 まだ不機嫌な声で、斎藤は前を向いたまま小さく返事をする。まだの顔を見る気にはなれないらしい。
「まあ、あれだ。知らない男にほいほいついていくんじゃないぞ。今日はたまたま親切な人間だったから良かったものの、そうじゃないことだってあるんだからな」
 知らない男どころか、自分以外の男には付いていくなと本当は言いたかったのだが、そう言うのはいかにも独占欲の強い鬱陶しい男のようで、言えない。けれど、テントの中でが若い警官と楽しそうに話している姿を見ただけでむかむかしたのだから、独占欲は人一倍強い方なのだろう。自分にそんな面があるとは、斎藤自身も驚きだ。
 これまでのことを構って欲しい願望の強い一寸鬱陶しいところのある娘だと思っていたが、斎藤だって独占欲の強い鬱陶しい男である。の構って欲しい願望も形を変えた独占欲と言えないこともないし、独占欲の強い者同士、丁度釣り合いの取れた組み合わせなのかもしれない。
 世の中は上手い具合に組み合わさるものだと、斎藤はに気付かれないようにそっと口許をほころばせるのだった。
<あとがき>
 あけましておめでとうございます。2005年正月ドリームです。UPしたのは5日ですが、暦の上では7日までは正月扱いなので、正月ドリームということで。
 しかし新年早々、誰だこいつ? なドリームですね(笑)。はぐれないためとはいえ、手を繋いで歩いているわけですから、去年よりは少し進展したといえば進展しているようです。つか、30男がこんな男子中学生のようなもので良いのか? ありえねぇ、という突っ込みは自分でやっていますので、生温く見守ってやってください。
 お正月だから、というわけではないのですが、背の低い赤毛の人と、背の高い鳥頭の人と、リボンの娘さんが出ています。ずっと斎藤と主人公さんだけの世界だったから、今年は他のキャラとも絡ませてあげたいなあと思っているのですが………。でもメインの人々って書きにくいなあ。
 この二人、くっ付きそうでくっ付かないイライラするような関係を続けていく予定ですので、今年もよろしくお願いいたします。
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